当時はさまざまな伝統建築を試みて10年ほど経っていました。
日本的な心、伝統的な心を持ちながら、そこに現代的な感覚を取り入れることが、私のモダニズムであったように思います。
そのようなモダニズムへの移行を意識しながら、現代の感覚に受け入れられやすい数寄屋として店舗空間を考えました。
祭りをテーマにしたこの寿司店は、刈谷市の町並みに溶け込もうとする願いから北面の大通りから閑静な南面の道路に通り抜けるような路地空間を作り出しました。
そこを折れ曲がり歩いていくと右側に小座敷が並び、左側には祭りの広場空間をたとえた広間を配置し、隣にカウンター席が並びます。
その道すがらに訪れて楽しむお客たちの笑顔を垣間みることができるよう計画しました。
そして、それぞれの部屋に祭りのしつらえをすることで四季折々の歳時を表現しました。
特に広間の席では、そのことを強調するべく青森の”ねぶた”のイメージを天井の明かりに用いました。
幼い頃、路地で神輿を上げた、町中が沸いたあの感動を忘れてほしくないと願いながら、この寿司店に路地の祭り空間を求めていきました。
撮影:小田秀城
敷地は刈谷市の中央に位置する繁華街にあり、北と南にそれぞれ大小の通りに面し、一筋内に入ると静かな町並みの続く、良好な環境です。
この店のご主人は町に対して熱い気持ちを持っておられ、この町にふさわしい店づくりをしたいと思われ、私を訪ねて下さいました。